研究会の垣根を越える交流は、どう設計するか

~屋形船交流イベントの土台にした、コミュニティづくりの探求~

2026年10月

PMI日本支部 関西ブランチ運営委員会

副代表 大西 徹

11/29(日)に、関西ブランチ運営委員会と4つの研究会が共同で、屋形船での会員交流イベントを開きます(告知ページ:https://www.pmi-japan.org/kansaisteeringcomm/yakatabune-2026/ )。

この企画を考えるにあたって、わたしたちはまず「人と人のつながりは、どうすれば生まれ、続いていくのか」を扱った研究を読むところから始めました。社会心理学、社会学、コミュニティ研究の知見をたどると、親睦の場を開くだけでは、研究会の垣根はなかなか越えられないことがわかってきました。放っておくと、人は知っている人の隣に座り、もともと仲のよい人どうしの結びつきが深まるだけで終わりやすいのです。

この記事では、そのとき整理した「交流イベントを設計するための前提」をまとめます。屋形船のイベントに参加される方には企画の裏側として、研究会をまたいだ企画を考えている方には設計のヒントとして、読んでいただけたらうれしいです。

1. つながりには2種類ある

つながりには2種類ある。結束型(同じ仲間どうしの深い絆)と橋渡し型(異なる集団をまたぐ浅く広い紐帯)
つながりには2種類ある

人と人のつながりには、同じ仲間どうしの深い絆(結束型)と、異なる集団をまたぐ浅く広い紐帯(橋渡し型)の2種類があります。

結束型は支え合いに強い一方で、内向きになりやすいつながりです。親睦イベントは、放っておくとこちらに寄っていきます。研究会の垣根を越えるために増やしたいのは、橋渡し型のほうです。新しい情報や機会は、親友よりも「知り合い」を経由して届くことが知られています(弱い紐帯の強み)。

全員が親友になる必要はありません。ほかの研究会に「顔と得意分野がわかる知り合い」が増えれば、それが成功です。

2. 同じ場にいるだけでは、壁は消えない

集団どうしの距離が縮まる4つの条件:対等な地位、共通の目標、協力構造、制度的後ろ盾
集団どうしの距離が縮まる4つの条件

異なるグループの人が同じ場にいるだけでは、距離は縮まりません。縮まるのは、次の4つの条件がそろったときだとされています(接触仮説)。515件の研究をまとめた分析でも、この効果は確かめられています。

条件中身
対等な地位役職や部会歴が効かない場をつくる
共通の目標一緒に達成すべき課題を1つ埋め込む
協力構造対抗ではなく協力で挑む。部会対抗戦は、垣根をむしろ強める
制度的後ろ盾権威ある主体が交流を公認している

対立していた少年たちのグループが打ち解けたのは、一緒に食事をしたときではなく、どちらか一方だけでは解決できない問題に協力して取り組んだときだった、という有名な実験もあります(ロバーズケーブ実験)。何をするかより、どう混ぜるかが効きます。

3. 単発のイベントでは、つながりは育たない

コミュニティの一員だと感じられるかどうかの核には、「一緒に過ごした歴史」があります。親しくなる過程について、次のような知見があります。

知見中身
くり返し会う好意は、会う回数そのものから生まれる。豪華な一度より、質素な複数回
会う機会の多さ友人になるかを決める最大の要因は、性格の相性より「会う機会の多さ」
段階を踏んだ自己開示浅い話から少しずつ深い話へ進む問いを使うと、初対面どうしでも45分で親しくなれる
一緒に動く・火を囲む・食べる一緒に体を動かし、作り、食べることが結束を生む
旗は持ったまま部会の旗は残したまま、混成チームで一緒に挑む。同化の強制も対抗戦も逆効果

ここから言えるのは、イベント当日の設計と同じくらい、次のイベントまでの間をつなぐ仕掛けが大切だということです。

4. 育てるための設計と、落とし穴

コミュニティが育つかどうかは、新しい人が入ってくるかどうかで決まります。そのための設計と、気をつけたい落とし穴があります。

種類項目中身
設計軽く関われる入口新しい人は、小さな役割から少しずつ中心へ移っていく。見学枠や記録係を公式に用意する
設計橋渡し役を育てる集団と集団の間をつなぐ人が、価値の源になる。幹事は2つの部会から1名ずつ出す
設計人数を割る親しく話せるのは5〜15名まで。人数が多いときは小さな単位に分ける
落とし穴補助金の副作用お金の支援は、自分からやりたい気持ちを弱めることがある。支援金は最初の出会いのコストと割り切る
落とし穴話してもらうことの強制深い話は「ここで聞いた話は外で使わない」というルールが前提。話すことは強制しない

支援が終わったあとも、少ない費用で続けられる形(勉強会型や持ち回りの幹事など)を、最初から考えておくことも大切です。

5. イベント設計の部品箱:10の仕組み

イベント設計の10の仕組みを、橋渡し/結束と、単発/継続の2軸で整理した図
イベント設計の部品箱:10の仕組み

ここまでの知見を、イベントに組み込める10の仕組みに整理しました。「垣根を越える(橋渡し)か、深く結びつく(結束)か」と「当日か、次のイベントまでの間か」の2つの軸で分けています。

企画するときは、橋渡しの仕組みから2つ、次のイベントまでの間の仕組みから1つを必ず入れることをおすすめします。

屋形船のイベントでは、こう使っています

仕組み屋形船のイベントでの形
① 上位目標の共有テーブルごとの「研究会コラボのアイデア出し」
② 偶然の隣人申込のときの所属をもとに、研究会をまたいだテーブルを事前に用意する
③ 二重アイデンティティ研究会の旗は持ったまま、ミニゲームは研究会をまたいだチームで。研究会対抗にはしない
⑤ 周辺参加の入口研究会をまたぐ交流がはじめての方を歓迎し、申込で伺う
⑦ 火と食持ち寄った飲み物やおつまみを囲む。会議室ではなく船の上で
⑧ 段階を踏んだ自己開示申込のときに「問い」を一言伺い、近い問いを持つ方どうしを同じテーブルに
⑨ 思い出を一緒に残す最後に集合写真を撮る
⑩ 「借り」を次回に持ち越すアイデア出しから生まれた「次にやってみたいこと」を、次の企画につなげる

6. 何を測るか

満足度のアンケートだけでは、「楽しかったけれど、つながりの構造は何も変わらなかった」という失敗を見つけられません。そこで、目的に合わせて次の3つを測ることを考えています。参加者の負担を増やさないよう、追加で伺う質問は3問以内にします。

観点指標測り方
橋渡し研究会をまたいだ新しいつながりの数終了時に1問「今日はじめて話した、ほかの研究会の方は何名ですか」
継続3か月後も接点が続いているか3か月後に2問だけ伺う(その後の接点、次の参加・企画の意向)
成長はじめて参加した人の割合申込のときに「研究会をまたぐ交流イベントへの参加ははじめてか」を伺う

7. 限界とリスク

リスク受け止め方
常連クラブ化いつもの顔ぶれの集まりになっていないか、はじめて参加した人の割合を見る
補助金頼み支援が終わると同時に消える会にしない。少ない費用で続く形への移行を考える
話してもらうことの事故話さない権利と、外で使わないルールをセットで伝える
研究の当てはまり方引用した研究の多くは欧米や学生が対象。日本の職能団体でそのまま再現できる保証はない
効果が出るまでの時間つながりの効果が見えるまでには年単位でかかる。1回の結果で「効果なし」と決めない

だからこそ、今回の屋形船は「仮説を確かめる場」と位置づけています。結果がわかったら、またこの場で共有します。


参考資料

※この記事のもとになった先行研究の調査とまとめは、AI(Anthropic 社の Claude Code)を使って行いました。

本記事で引用した研究者

人名分野年代本記事との関わり
Festinger(フェスティンガー)社会心理学1950友人になるかを決めるのは、性格の相性より「会う機会の多さ」
Allport(オールポート)社会心理学1954接触仮説。集団どうしの壁が下がる4つの条件
Sherif(シェリフ)社会心理学1961ロバーズケーブ実験。対立集団を融和させたのは協働の上位目標
Zajonc(ザイアンス)社会心理学1968単純接触効果。会う回数そのものが好意を生む
Deci(デシ)動機づけ心理学1971金銭の報酬が、自分からやりたい気持ちを弱める
Granovetter(グラノヴェッター)社会学1973弱い紐帯の強み。新しい情報は親友でなく知り合いから届く
Tajfel(タジフェル)社会心理学1979社会的アイデンティティ理論。部会対抗戦が垣根を強める理由
McMillan & Chavis(マクミラン/チャビス)コミュニティ心理学1986コミュニティ感覚。核は「一緒に過ごした歴史」
Lave & Wenger(レイヴ/ウェンガー)学習理論1991正統的周辺参加。新しい人は小さな役割から中心へ育つ
Burt(バート)社会学1992構造的空隙。集団の間をつなぐ人に情報が集まる
Dunbar(ダンバー)進化人類学1992親しくやり取りできる集団の大きさには上限がある
Aron(アーロン)社会心理学1997親しさを生む36の質問。段階を踏んだ自己開示
Edmondson(エドモンドソン)経営学1999心理的安全性。失敗談を話せる場の条件
Putnam(パットナム)政治学2000『孤独なボウリング』。結束型と橋渡し型の区別

引用文献

  • Festinger, L., Schachter, S., & Back, K. (1950). Social Pressures in Informal Groups. Harper.
  • Allport, G. W. (1954). The Nature of Prejudice. Addison-Wesley.
  • Aronson, E., & Mills, J. (1959). The effect of severity of initiation on liking for a group. Journal of Abnormal and Social Psychology, 59(2).
  • Sherif, M., et al. (1961). Intergroup Conflict and Cooperation: The Robbers Cave Experiment. University of Oklahoma.
  • Zajonc, R. B. (1968). Attitudinal effects of mere exposure. Journal of Personality and Social Psychology, 9(2).
  • Deci, E. L. (1971). Effects of externally mediated rewards on intrinsic motivation. Journal of Personality and Social Psychology, 18(1).
  • Granovetter, M. S. (1973). The strength of weak ties. American Journal of Sociology, 78(6).
  • Altman, I., & Taylor, D. A. (1973). Social Penetration: The Development of Interpersonal Relationships. Holt.
  • Tajfel, H., & Turner, J. C. (1979). An integrative theory of intergroup conflict. In The Social Psychology of Intergroup Relations.
  • McMillan, D. W., & Chavis, D. M. (1986). Sense of community: A definition and theory. Journal of Community Psychology, 14(1).
  • Lave, J., & Wenger, E. (1991). Situated Learning: Legitimate Peripheral Participation.(邦訳『状況に埋め込まれた学習』)
  • Burt, R. S. (1992). Structural Holes: The Social Structure of Competition. Harvard University Press.
  • Aron, A., et al. (1997). The experimental generation of interpersonal closeness. Personality and Social Psychology Bulletin, 23(4).
  • Dunbar, R. I. M. (1998). The social brain hypothesis. Evolutionary Anthropology, 6(5).
  • Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2).
  • Putnam, R. D. (2000). Bowling Alone.(邦訳『孤独なボウリング』柏書房)
  • Pettigrew, T. F., & Tropp, L. R. (2006). A meta-analytic test of intergroup contact theory. Journal of Personality and Social Psychology, 90(5).
  • Wiltermuth, S. S., & Heath, C. (2009). Synchrony and cooperation. Psychological Science, 20(1).
屋形船交流イベントの告知画像

開催予定のイベント

屋形船で楽しむ会員交流のひととき

2026/11/29(日)13:30〜15:30
大阪・八軒家浜船着場
申込締切 11/18(水)

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