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【第21回】 プロジェクトをデザインする

プロジェクトをデザインする 

PMI日本支部 理事 研究担当
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 准教授
当麻 哲哉

 

2006年の暮れ、母校の慶應義塾大学の見知らぬ先生から国際電話が入った。私は当時、アメリカの片田舎、ミネソタ州にある3Mという会社で、製品開発プロジェクトに従事していた。その先生は熱い思いで私に説明をしてくれた。どうやら社会を変えていくリーダーを育てる大学院を作るらしい。そのために社会で活躍している人材を教員として集めているという。日本を捨てて渡米した自分に何が協力できるのか、と疑問を感じながら他人事のように聞いていたが、そうした母校の新たな挑戦に、どこかワクワクする心が燃やされていた。
 
 慶應義塾が福澤諭吉によって設立されたのが1858年。そこからちょうど150年を迎えた2008年、気づいてみると私は、その新しい大学院の教壇に立ってプロジェクトマネジメントを教えていた。「ものづくり」を20年やって来た自分が、「ひとづくり」を始めたのである。考えてもみなかったが、今までの生き方とまるで違う新たな人生を歩み始めていることを感じた。プロジェクトマネジメントを教えている大学は日本ではまだ少数である。しかし今の世の中、もし福澤諭吉が生きていたらきっと教えていたに違いないほど、プロジェクトマネジメントは実学中の実学である。
 
 変化の激しい現代社会において、プロジェクトはより多様化し、より複雑になってきている。業務はどんどんと専門化されており、マネジャーよりも現場のワーカーたちの方が、最新の知識を豊富に持っており知恵もあり経験も深い。彼らの協力なしには業務の詳細な流れも中身も見えてこない状況にある。もはやプロジェクトをリードする人物は、進捗管理をするだけの「管理人」であってはならない。組織や経営者の思いを同じ釜の飯を食う現場の仲間たちと共有し、そのビジョンを実現していこうとする原動力がリーダーに欠かせないのである。ゴールに向かってビジョンを見える形に具現化していく力、これを「プロジェクト・デザイン能力」と呼ぶことにする。
 
 プロジェクトを取り巻くさまざまな社会環境、その全体を見渡してWBSを分解し、要素間のつながりを可視化していくこと、これは、大きなキャンバスのデッサンに手を加えてディテールを表現していく、色彩を加えて実在感を出していくデザインのプロセスである。こうしたプロセスを通して大規模複雑システムが具体的に取り組める形になり、ゴールの目標とタスクの手順が見えてくる。計画段階に限らず実行段階でもデザイン感覚が必要だ。刻々と変化する状況の中で、得られる情報を整理し及ぼす影響のバランスを取りながら、全体像を見失わずに最適解を選択していく意思決定過程がデザインといえるだろう。答えは一つとは限らない。この決断によって完成する絵がどうなるのか、結果をイメージしながらバランスのとれた絵を描く力が必要なのである。
 
 ここに私の所属する大学院で体系化してきた 「システム×デザイン思考 が生きてくる。大学院に附属する 「SDM研究所」 では、一般向けの研修やセミナーも開催しているが、その中で私が受け持つプロジェクト・マネジャー能力開発として、この「プロジェクト・デザイン能力」を育てる研修を2009年から行っている。従来は「プロジェクト・マネジャー能力強化研修」と呼んでいたが、今年から 「プロジェクト・デザイン合宿研修」 と改名した。「システム×デザイン思考」 を実践的に生かす他にはない研修によって、これからの社会を変えていく次世代のプロジェクト・マネジャーを輩出していきたい。 

参考情報

 

2014年8月