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【特別寄稿】 Agile Japan 2013 ~共に創ろう、日本のアジャイル~ 参加レポート

PMI日本支部も後援している Agile Japan 2013 が5月24日に開催されました。

参加されたPMI日本支部会員の方も沢山おられるようですが、アジャイルPM研究会準備プロジェクトから参加された塩田宏治氏より参加レポートが寄せられましたのでご紹介します。

Agile Japan 2013 ~共に創ろう、日本のアジャイル~ 参加レポート

レポート記者: アジャイル・プロジェクトマネジメント研究会 準備プロジェクト  塩田宏治

開催概要

開催日 : 2013年5月24日

会場 : 日本アイ・ビー・エム株式会社 本社セミナールーム

規模 : 参加人数 200名

主催 : アジャイルジャパン 2013 実行委員会 

概要

今年でAgile Japanも5回目の開催となり、東京以外の12サテライト会場とも連動した大規模なイベントとなった。基調講演となるセッションを全国で結び、その他の個別テーマセッション、ワークショップ、事例セッション、クリエイティブセッションは会場ごとに実施するという形態である。今年は初めてクリエイティブセッションが設けられ、デザイン思考やソーシャルといった切り口でワークショップが開催された。テーマにもあるとおり、アジャイルが徐々に受け入れ始められた今こそ、アジャイルの本質をとらまえた日本流アジャイルの適用を考え、真のビジネス効果を生み出さなければならないと考える。

メイン会場風景

AgileJapan2013.jpg

参加した講演およびワークショップ

1. 9:00- 9:50 「チュートリアルセッション」
  西河 誠 氏  AVCマルチメディアソフト株式会社

あらためてアジャイルとは何かの基本を再確認でき、アジャイルにこれから取り組もうと考えている人には最適なセッションであった。アジャイルにおける基本的な成功しているプラクティスを概観する一方で、アジャイルは顧客価値の最大化を目指してやっているにも関わらず、アジャイルソフトウェア開発宣言では「ソフトウェアの価値」については多くを語っていないことについて問題提起がなされていた。セッションの最後は「アジャイルとは何か。実践することである。」という言葉で締めくくられた。

2. 10:10-11:00 "Demand Technical Excellence" アジャイルにおける技術と品質の重要性
  James Grenning 氏

アジャイルにまだ取り組んでいない人からあげられる懸念の一つが、アジャイルで開発した時の品質の問題だ。最初に全体視点で設計を固め、ドキュメンテーションをしっかりし、レビュー時間を確保し、変更がもたらす品質劣化を最小化することに努力を払ってきた従来の開発者からすると、アジャイルはあまりにもその常識の逆のプラクティスであるため、懸念を持つ気持ちは理解できる。本セッションは、テスト駆動開発の専門家でもあるGrenning氏より、常にテストを開発とセットで行うことで品質の作り込みを担保するメリットが提言された。「そんな時間は開発中にはないですって? 後のテスト実行時にバグつぶしをしている時間があるのにですか?」これは、氏の言葉である。

3. 11:00-11:50 「柔軟心 (にゅうなんしん) と庭園デザインにおけるユーザーエクスペリエンス」
  枡野 俊明 氏  建功寺住職 多摩美術大学環境デザイン学科教授

禅寺の住職でもある枡野氏の禅や日本の庭園デザインの思想とアジャイルの思想との親和性を問うた本講演は、実に興味深い。禅は哲学とも近しいが、何よりも実践、つまり行を大事にする。これはアジャイルの実践主義と思想を同じくする。また、和食も同様であるが、日本における庭園デザインも、「目の前の自然を生かす」ことが重要視される。つまり、現場における状況や環境からの要求をくみ取り、その変化について柔軟に対応する。また、最終的に石や木をくみ上げる前に、いったん仮組をすることでよりよいアイデアを取り入れることは、プロトタイプを作ることと相通じる。そして最後に、「AgileがすすむとFragileになるのではないか?世はどんどん変化していく常にうつろいでいくもの(無常)であることが、真実ではないか。ソフトも、これが完全というものはなく、常に進化して世の中のニーズにあっていくのではないか。日本のFragileを作っていってほしい。」と締めくくった。

4. 11:50-12:10 「アジャイル開発のプラクティス・レファレンスガイド
  ~アジャイル開発を適切に導入するための工夫と留意点~」
  山下 博之 氏  独立行政法人情報処理推進機構

IPAの調査をもとにした、アジャイルの現状についての報告があった。また、IPAで取りまとめた「アジャイル型開発におけるプラクティス活用リファレンスガイド」についての紹介もあり、商用利用もできる改変可能なドキュメントとして公開しているとのことだ。興味のある方は、IPAのページにアクセスをしてほしい。

5. 13:10-14:40 「大手ベンダーが組織的に取り組むアジャイル開発の普及展開
  ~お客様と共に時代を勝ち抜くための新しい「手札」を増やす~」
  小原 由紀夫 氏 株式会社富士通アドバンストエンジニアリング
  誉田 直美 氏  日本電気株式会社
  新井 広之 氏  株式会社NTTデータ
  Mehra Rohit 氏  株式会社NTTデータ・グローバル・テクノロジー・サービス・ジャパン

富士通、NEC、NTTデータの大手ITベンダーにおけるアジャイルの取り組みについて、各社の講演と合同Q&Aがなされた。アジャイルが、3Kと呼ばれているSEの開発現場を変えるものとしての期待値が大きいことを感じた。また、PMにとってアジャイルは一つの派生ととらえ、アジャイルの求める重要な要素(例えばチームビルディング)は従来からPMが取り組んできたものとの共通点があることや、組織としての品質を担保する仕組みとの融合が必須であることが強調された。グローバル環境下でのアジャイルチームの形成についてコメントもあり、「経験上、○○人だからという言い訳をしてあきらめてしまうことが一番の問題である」との指摘があった。最後に「アジャイルを開発レベルでとらえるだけではなく、経営にどうアジャイルが貢献できるか、どう意思決定をしていくかについて、シニアマネジメントの理解がない限りアジャイルはメジャーにはなれない」という指摘は、アジャイルがスケールアップするためには非常に重要な視点である。

6. 14:50-16:20 「ビジョン提案型デザイン ~初心者のための90分ワークショップ~」
  山崎 和彦 氏  スマイルエクスペリエンス・デザインラボ 千葉工業大学工学部デザイン科学科教授

クリエイティブセッションの中から、ビジョン提案型デザインのワークショップに参加した。これは5~6人のチームに分かれて、新しいビジネスをチームでデザインして発表しあうというものである。プロダクトディスカバリーのプロセスを体験できるよい機会であり、体験型ワークショップは実践を通した理解に非常に有効である。

7. 16:30-18:00 「リーンスタートアップのキャンバス活用:日本の新規事業開発最先端企業リクルートキャリアでは」 
  細野 真悟 氏  株式会社リクルートキャリア
  和波 俊久 氏  リーンスタートアップジャパン

リーンスタートアップの重要性を示す、リクルートキャリア社のプロジェクト失敗事例の共有と、その後のリーンスタートアップのコンセプトを取り入れた実践事例の紹介があった。リーンキャンバスを用いて素早く企画を仮説検証していく手法は、迅速に環境変化に合わせてビジネスを変化させていくために、重要なケイパビリティであることが、実践例からよくわかる。また、和波氏からは「組織の変革スピードは、利用するツールの持つスピードを超えられない」との指摘があり、リーンキャンバスよりさらに要素を絞り込んだ高速なProblem/Solution Fitの考え方とツールが紹介された。

所感

アジャイル開発の適用が年々拡大し、コミュニティーも大きくなっているのを目の当たりにする一方で、大手ITベンダーの目からは、マーケット全体からみるとまだほんの一部でしか盛り上がっていないという指摘もなされている。開発者視点から見たときに、本来プログラムの設計・開発はデザインする仕事であるにもかかわらず、工場での組み立て作業と同様に扱おうとしてきたことへの反省は的を射る※。工場において、日本の現場が労働者の多能工化を追求し、カイゼンを通して人間としての能力発揮を重視してきたことは誰しもが知っているにも関わらず、ソフトウェア産業がその逆を行ってきたこと自体がおかしな話である。ますますソフトウェア開発の在り方を変えていく原動力にアジャイルはなっていくであろう。しかしながら、アジャイルの思想は、現在の計画ドリブンなマネジメント思考と組織に埋め込まれたプラクティスと合致していない。ソフトウェア開発の枠を超えて、経営システムやビジネスや企業組織をアジャイルに変革するという視点からアジャイルに取り組むことが、アジャイルの真のビジネス成果を生むために今後求められる。