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PMBOK®ガイド 第5版紹介シリーズ 第4回  ナレッジ・マネジメント

PMBOK®ガイド  第5版 紹介シリーズ
第4回 ナレッジ・マネジメント

PMBOK® 委員会
山本 雅也

(1) あなたはプロジェクト失敗の経験を成功につなげていますか?

 あなたの周辺では、過去の経験を活かせずに失敗を繰り返しているケースが多くはありませんか。例えばレポートがバラバラに保管されていてどこにあるのかわからない、一覧管理されてはいるが分析や体系化が行われておらず有効に活用できていないといったことがあれば、それは蓄積されたデータを有効に活用しきれていないのが一因なのでしょう。そこにはもっとさまざまな理由があります。
 例えば、プロジェクト・マネジャーは常にさまざまな課題をかかえており、それを適時解決していかなければなりません。そのような事情から、蓄積されたデータや情報を有効に活用するような活動をなかなか行えないようです。
 ご存じのように、蓄積された過去の失敗情報は成功情報と同様に高い価値をもつ情報資産です。その情報の分析を行い事前にリスクの軽減や回避などを行うために知恵を絞ることが、プロジェクトの成功要因となります。
 ナレッジ・マネジメントにおけるDIKWモデルに沿った情報の流れは次の図に示されており、これにしたがえば蓄積された情報を確実に活用することができます。

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(2) PMBOK®ガイド 第5版でのナレッジ・マネジメント

 PMBOK®ガイド 第5版では、プロジェクトにおける情報の特性を、作業パフォーマンス・データ、作業パフォーマンス情報、作業パフォーマンス報告、という3種類に分類し、その流れをDIKWモデルに沿って整理しています。
 DIKWモデルとは1980年代に検討された思考モデルであり、その後改良され多くの分野で定義されている、Data(生データ)、Information(情報)、Knowledge(知識)、Wisdom(知恵)の頭文字から命名されたモデルです。
 今回ナレッジ・マネジメントにDIKWモデルが採用された理由は、PMBOK®ガイド 第4版までは十分に整理されていなかった情報の流れの一貫性を改善し明確にするためです。
 PMBOK®ガイド 第5版では、プロジェクト活動から提出される生データを知識エリアごとに分析して情報とし、それをとりまとめて知識とし、それを配布・保管・活用することによって新しい知見や知恵が生まれるという仕組みとしています。
 ナレッジ・マネジメントによるプロアクティブな活動によりプロジェクトの成功確率を一段と高めることができるでしょう。

 ここでDIKWモデルの簡単な例を二つご紹介しましょう。

 【料理中のケガ】
 料理をしているときに包丁で手を切ってしまい、応急処置として止血をしました。その手を切ったという事実と応急処置の状況が、事実に基づく生データです。
 このデータを分析し原因を追究すると、包丁の切れ味が悪くなっていて余分な力を入れたために手を切ってしまった、という原因が判明しました。そのための対策として、その包丁を研ぐことになりました。さらに応急処置の状況を検査して包帯を取り換えたり薬を塗ったりしました。この原因分析や対策状況を表したものを情報といいます。
 この情報を状況報告書として取りまとめ、関係者に配布し、しかるべき場所に保管して活用を図りました。これを関係者の知識とします。
 この知識を応用して、別の包丁の研磨を促進することや危険物の取り扱いについての安全ガイドが作られました。つまり新しい知見や知恵が生まれたということです。

 【システム開発の遅延】
 開発作業中に資料の不整合が発覚し、そのためスケジュール遅延が発生しました。この事実がデータとなります。ここでは分析や評価はありません。
このデータを分析すると原因は要件定義にあることが判明したので、あらためて詳細を確認するために人を増やしてなんとか対応しました。なぜなぜ分析によると、非機能要件について環境の変化の考慮が不足していた、ということでした。これら一連の状況を文書化したものを情報といいます。
 この情報をもとに、さらにプロジェクト全体としての遅れ原因を探ってみると、合計5件の遅れ要因のうち60%を占める3件が要件定義に起因していました。また、その影響で平均5日の遅れ、合計15日の遅れとなっており、要員追加の遠因ともなっていました。これらの状況をプロジェクト報告書とし関係者へ配布しました。この報告がプロジェクトの知識となります。
 その報告書から、非機能要件を定義する際には確実に環境変化の要素を組み入れるようにガイドが作成され、他のプロジェクトへも通知されました。つまり新しい知見や知恵が活用されたのです。

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 PMBOK®ガイド 第5版 には採用されていませんが、一般に採用されているSECIモデルについてもDIKWモデルに加え合わせて考えていくことで、プロジェクトをより効率的かつ確実に実行できるようになり成功確率も高まることでしょう。

(3) SECIモデル

 SECIモデルは、暗黙知と形式知を相互に繰り返して変換していく知識創造活動を示します。集団で共感・共有し、変換して新しい知を作り出していく活動はアジャイル開発のスプリントにおける活動と非常によく似ています。それは、コミュニケーションを重視して暗黙知の伝達を増やし知識創造を起きやすくしているモデルと言えます。
 アジャイルにおける繰り返し期間の一単位としてのスプリントでは、一回のスプリントの終結ごとにスプリント・レビューを行い、成果物のデモと振り返り(レトロスペクティブ)を行います。これは暗黙知を共有し、形式知へのフィードバックを行う形となっています。

  □ SECIモデルのフレームワーク
   ● 共同化(Socialization);暗黙知 → 暗黙知
    組織に中で暗黙知を共同で作業をする中で共有する活動

   ● 表出化(Externalization);暗黙知 → 形式知
     暗黙知を分析し文書化する事で形式知とし伝達可能な形にする活動

   ● 連結化(Combination);形式知 → 形式知
     形式知を組み合わせたり編集したりして体系化し新しい知識を生み出す活動

   ● 内面化(Internalization);形式知 → 暗黙知
     新たに生まれた形式知を個々の人々の暗黙知に取り込む活動

   アジャイル開発については、次回(第5回)で紹介します。

以上

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