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PMBOK®ガイド 第5版紹介シリーズ 第7回  スコープ・マネジメント

PMBOK®ガイド  第5版 紹介シリーズ
第7回 スコープ・マネジメント

PMBOK® 委員会
山本 雅也

 今まで6回にわたりPMBOK®ガイド 第5版の特徴を紹介してきましたが、読者の皆さんから続編の要望を受け、この度、連載を再開することになりました。
 2017年第1四半期にはPMBOK®ガイド 第6版(英語版)が発行される予定ですので、その前に現状のPMBOK®ガイド 第5版を正しく認識しておくためにも、是非、御覧いただければと思います。

 今シリーズでは、これまでにご紹介していないPMBOK®ガイド 第5版の知識エリアに加え、PMI日本フォーラムで発表した内容や拡張版についてもご紹介いたします。

       第 7回  スコープ・マネジメント
       第 8回  タイム・マネジメント
       第 9回  リスク・マネジメント
      第10回  統合マネジメント
      第11回  PMBOK®ガイド は使えるのか
      第12回  PMBOK®ガイド 拡張版

(1) プロローグ

あなたは、プロジェクトが成功を収める要因は何だと思いますか?

 従来、日本企業のプロジェクトではQCD(品質・コスト・納期)を中心に管理が行われてきました。これは現場におけるモノ作りを中心とした考え方です。しかし、QCDが達成できてはいるが、実現したスコープ(プロダクト・サービス・所産)がプロジェクトの目的と合致していなかった場合、これは成功と言えるのでしょうか?
 PMBOK®ガイド では、プロジェクトの成功の要因として「品質」、「予算遵守」、「適時性」に加え、「顧客満足」を定義しています。「顧客満足」は顧客要求への適応度合いで表わすことができます。つまり、これらすべての要因を実現することこそが、グルーバルな環境を含めた厳しいビジネス環境における真のプロジェクト成功と位置づけているのです。

 そこで今回はプロジェクトを成功へ導く重要な知識エリアのひとつである「スコープ・マネジメント」について、わかりやすく解説します。

(2) 要求事項のマネジメント

 プロジェクトにおいて顧客要求を実現するためには、まず何を実施すればよいのでしょうか?
 プロジェクトは、顧客を中心としたステークホルダーの期待を満たすか、あるいは課題を解決するために立上げ・計画・実行されます。ステークホルダーの期待や要求事項を収集しスコープを確定させる際、ステークホルダーは「あれもやりたい」、「これもやりたい」とさまざまな要求を提示してきます。また、プロジェクトへの要求も必ずしも一定の方向性に基づいているとは限りません。

 このような状況のままプロジェクトを進めたら一体どうなるのでしょうか? おそらくスコープは膨らみ、コストは増加し、スケジュールは遅延し、さらに品質の劣化などの事態を引き起こしてしまい、その結果、顧客を満足させることができずにプロジェクトは失敗に終わることでしょう。

 このような事態を避けるため、プロジェクト・マネジャーは、プロジェクトの目的に向けて要求を収束させ、プロジェクトで実現すべき要求事項を確定させるための活動である「要求事項マネジメント」を確実に行う必要があります。日本では「要求事項」を表現するものとして、一般に「要件定義」という用語を使用しますが、PMBOK®ガイド では、「要求事項」とそれを確定した結果である「スコープ」とに分けて定義しています。具体的には、「要求事項文書」を顧客の言葉で記述し、実装されるものとして最終決定された要求事項から「スコープ記述書」を作成します。

(3) ステークホルダー・マネジメント

 要求事項を確定するためには、どのようなアプローチをとればよいのでしょうか? プロジェクトへの要求は山のようにあります。また、所属する部門や立場によって、それぞれのステークホルダーの意見も異なるため、ステークホルダー間のコンフリクト(対立)が発生することもあります。
 このような状況で、時間や予算の制約条件を考慮しながら優先順位を検討して要求事項を確定し、スコープを定義し、スコープ・ベースラインについてステークホルダーと合意することは容易なことではありません。
 また、組織におけるスコープの決定方法に問題があることもあります。単に声の大きい人の意見が優先されていたり、一部の人だけで要件を決めていたり、きちんとした議論や検証のないまま多数決で決定したりする、といった慣習や風土が存在する組織もあります。このような組織では、要求事項を確定するための適切なプロセスや基準が確立されていないため、プロジェクトの目的に沿って要求事項を確定することは難しいでしょう。

 PMBOK®ガイド の要求事項収集プロセスは、合理的な意思決定に基づき要求事項を確定できるように、要求を体系的に整理し決定することを扱っています。すべての要求を取り入れようとすると、定められた期間や予算の範囲に収まらないほどスコープが拡大してしまうため、要求に優先順位を付け、スコープに含める範囲を絞り込んでいく必要があります。そのためプロジェクト・マネジャーは、ステークホルダーと緊密なコミュニケーションをとり信頼関係を築きあげ、ステークホルダーの真のニーズを把握する必要があります。

 真のニーズを把握するためには、要求を体系的に整理することも大切です。プロジェクトへの要求には、プロジェクトを立上げる目的となるビジネス・ニーズを表した「ビジネス要求」、そのビジネスに関わるステークホルダーがビジネスを遂行する上で必要と考えて要求する「ステークホルダー要求」、そして情報システムなどのプロジェクトの成果物(ソリューション)への直接の要求である「ソリューション要求」、などがあります。それぞれの要求の位置付けと要求間の関係を整理することでステークホルダーも考えが整理でき、要求に関するコミュニケーションが円滑に進みます。

 そうすることで、ステークホルダーをプロジェクトに積極的に関与させることが可能となり、プロジェクトの目的に沿った優先順位の高い要求事項が引き出せ、要求事項を早期に確定できるようになります。そういう意味では、要求事項を確定させるためには、この段階でのステークホルダー・マネジメントが重要となります。要求事項を引き出すとは、ステークホルダーが考えていたりイメージしたりしても明確になっていない事柄を図示したり文書化したりして明示することです。人の頭脳には言葉にならない情報があることが多いので、それを適切な質問などを通して言葉にすることによって、新たな要求が明確になってきます。

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(4) 要求事項を確定する手順

 それでは、どういう手順で要求事項を確定していけばよいのでしょうか?
 始めに出された要求事項が適切なものとは限りません。合理的な意思決定方法を用いて要求を確定していくには、要求を段階的に詳細化していくアプローチを採ることが望まれます。
 まず、誰からどのような要求事項をどのようにして抽出したらよいかを計画し、さまざまな技法を活用して要求を引き出します。単に要求が一覧で並んでいても引き出した要求が適切なものであるかを確認することは困難なので、要求をわかりやすく体系的に整理し文書にまとめます。そして、要求の抜けや漏れ、あるいは矛盾を訂正する検証活動と、プロジェクトの目的との整合性を確認する妥当性確認活動を行います。
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 これらの手順を繰り返し、適切な要求事項のセットを構築した後に要求事項の優先順位を付けてスコープに反映すべき要求についてステークホルダーと合意し、スコープ・ベースラインを確定します。
 ただし、プロジェクトの開始前に要求が明確になっていない、または、すぐには要求事項全体を明らかにできないようなプロジェクトもあります。このようなプロジェクトについては、アジャイル等の適応型ライフサイクルを適用して、2~4週間程度の短い期間(イテレーションあるいは、スプリントと呼ばれる)の単位で要求の整理・検討・確定を繰り返し、スコープを段階的に確定していきます。
 このような場合、スコープに反映されなかった要求事項はバックログに入れておき、次のイテレーションやスプリントにおけるスコープを定義する際に、優先順位の高い要求からスコープに反映させるようにします。

(5) 要求事項の監視・コントロール

 要求事項をスコープに反映したら、その要求事項についてはプロジェクトの実施中にいっさいの監視や管理を行う必要はないのでしょうか?

 PMBOK®ガイド のスコープ妥当性確認プロセスは、プロジェクトのスコープが要求事項を適切に反映し、本来の目的に合致した成果を上げることを確実にするためのプロセスです。要求事項収集プロセスのアウトプットとして要求事項トレーサビリティ・マトリックスが定義されています。このマトリックスと要求事項文書をもとに、要求の追跡を継続的に行いますが、これらを要求事項ベースラインとして管理することも良い方法です。

 具体的には、ビジネス要求、ステークホルダー要求、ソリューション要求のつながりを確保した上で、プロジェクトの成果物への直接の要求であるソリューション要求がプロジェクトのスコープに適切に反映され維持されているかについて、プロジェクトのライフサイクルを通して監視を行い、最終的な成果物に反映されるまでを追跡します。そして、要求事項とスコープとの間にギャップを発見した場合は、プロジェクトの統合変更管理を通して、スコープの変更を行うなどの形で対処します。このギャップのことをPMBOK®ガイド では「スコープ・クリープ」と呼んでいます。 fig3.JPG

 ※PMI日本支部の会員向けに、「要求事項トレーサビリティ・マトリックス」のテンプレートはPMI日本支部のWebサイトで無料ダウンロードできます。

まとめ

 以上、今回はPMBOK®ガイド 第5版「スコープ・マネジメント」について概略を解説しました。

 プロジェクトを成功に導くためには、プロジェクトの目的を実現するためにステークホルダーと信頼関係を構築し、要求事項を引き出し、その要求事項を絞り込んでスコープを確定させる必要があります。
 また、要求事項がプロジェクトの最終的な成果に反映されるように、プロジェクトのライフサイクルを通した監視・コントロールを実施する必要があります。そのためには、「スコープ・マネジメント」だけでなく、「ステークホルダー・マネジメント」およびプロジェクト全体をとりまとめる「統合マネジメント」も合わせて確実に実行する事が非常に重要です。
 これらの対応を行うと、難易度の高いプロジェクトやリスクの高いプロジェクトにおいても、プロジェクトを成功に導ける確率が高まるものと確信しています。

以上

当連載の他の記事へのリンク

  第1回 イントロダクション
  第2回 ISO21500について
  第3回 ステークホルダー・マネジメント
  第4回 ナレッジ・マネジメント
  第5回 アジャイル型ライフサイクル
  第6回 プログラム、ポートフォリオ
  第7回 スコープ・マネジメント
  第8回 タイム・マネジメント
  第9回 リスク・マネジメント
第10回 統合マネジメント
第11回 PMBOK®ガイド は使えるのか
第12回 PMBOK®ガイド 拡張版