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PMBOK®ガイド 第5版紹介シリーズ 第8回  タイム・マネジメント

PMBOK®ガイド  第5版 紹介シリーズ
第8回 タイム・マネジメント

PMBOK® 委員会
山中 良文 

設問

 Zさんは、J社の商品開発部に所属するプロジェクト・マネジャー(以下、PMと称す)です。年が明けて新年会続きのある日、T部長共々担当のS取締役に呼ばれました。S取締役を訪れると、そこには既に商品企画部長のN部長も着席していました。

 S取締役が、「当社が開発中の商品を、N社が競合商品としてこの10月に発売するとの情報を得た。当社も10月1日を目指していたがN社と同時発売では勝ち目が薄いので3ケ月先行して発売したい。どうだ、できるか?何か問題があれば言ってくれ。1週間後の経営会議に上程したい」と穏やかに話を切り出しました。
 ZさんはT部長とN部長を横目に見ながら慎重に言葉を選びながら、「厳密な検証が必要で、関係者の合 意も取り付ける必要がありますが、×××××という条件であれば達成可能と考えます」と即答しました。
 S取締役は、「了解した。3日後に関係者を招集するから、詳細はその場で説明してくれ」

 さて、あなたならどう答えたでしょうか? そして的確に答えるためには、PMとして普段から何をしておかねばならないのでしょうか?
 PMとしてプロジェクト全体のシナリオを理解し、ボトルネックとなるクリティカル・パスやリスクを明確に把握しておくことが重要です。

 さあ、PMBOK®ガイド に沿って考えてみましょう。

(1) PMとして普段からやるべきこと

実行可能なスケジュール作成

 第7回(前回)のテーマでは、スコープ・ベースラインが話題に出ましたが、ステークホルダーとスコープの合意をとった後、以下のプロセスでスケジュール策定を行います。
 まずスケジューリングのための方針を決定し、成果物生成に必要な活動(アクティビティ)を定義し、必要な人的および物的資源を見積もり、過去の実績を参照し専門家の支援を借りながら作業期間を見積もり、それらの情報をもとに実行可能なスケジュールを作成します。
 PMBOK®ガイド では、スケジュール・マネジメント計画の後をいくつかのプロセスに分けています。

 それぞれのプロセスは、実際には同時並行して、あるいは行ったり来たりしながら、進んで行きます。

 データフロー.jpg
  • アクティビティ定義
  •  スコープ・ベースラインから成果物を生み出すための活動に落とし込みます
  • アクティビティ順序設定
  •  アクティビティの前後関係に着目し、論理的な作業順序を設定します
  • アクティビティ資源見積り
  •  各アクティビティに必要な人的および物的資源を見積もります
  • アクティビティ所要期間見積り
  •  各アクティビティを完了するために必要な期間を見積もります
  • スケジュール作成
  •  制約事項(※1)を考慮しながら、クリティカル・パス(※2)を意識して合理的なスケジュール短縮策(※3)を盛り込み、スケジュール・ベースラインを作成します

※1 制約事項例
 ・調達可能なリソースに限りがある
 ・コスト制約:技術および業務習得
※2 クリティカル・パス
 ・プロジェクト・アクティビティの最長経路。そこからプロジェクトの最短期間が求められる。(PMBOK®ガイド 557頁)
※3 スケジュール短縮策(後述)
 ・クラッシング
 ・ファスト・トラッキング

スケジュール・コントロール (パフォーマンス・レビューと是正処置)

 スケジュールをコントロールするには、計画時のパフォーマンスに対する現実のパフォーマンスを測定の上で比較し、状況に応じて合理的な是正処置をとることが必要です。そのためには、アウトプットの状況、投入資源(工数やコスト等)を定量的に把握し、以降の見通しを立て、適切なリカバリー手段を講じる必要があります。
 「残業、徹夜、休日出勤にてカバーする」は、定量的な裏付けがあって初めて有効です。精神論的な頑張りイズムは、かえって問題の顕在化を遅らせ、品質劣化をまねき、傷口を深くします。
 従って、EVM(※4)などの客観的な指標を活用し、早い時期に投入要員を増やす等の対策を講じることによって、結果的に問題を小さくできる場合が多いはずです。遅れも小さく、追加投入要員も少なくて済みます。

※4 EVM:Earned Value Management
 プロジェクトのパフォーマンスと進捗を評価するために、スコープ、スケジュール、および資源の測定値を結びつける方法論(PMBOK®ガイド  556頁)

 例) あるソフトウエア開発工程
      計画:期間4週間、80人日投入
      実績:開始2週間経過、40人日投入、成果物は計画の30人日分

      この場合、実績では、生産性は30人日/40人日=0.75であるため、今後、生産性向上要素がなければ、生産性ダウン分が、スケジュール遅れ、コスト増につながります。
      (単純計算では、工期、コストともに3分の4倍になる)

(2) スケジュール短縮の要求

 設問のように、外部環境の変化に対応して、大幅なスケジュール短縮が要請される場合、当初計画から、スコープやコストなどの制約条件のうち何かを犠牲にする必要が出てきます。
 何を犠牲にするか、プロジェクトの目的と達成価値を考慮しながら決めるべきです。どうも一般にスコープを犠牲にする場合が多いようですが、以下を参考に、イベントの開催など身近な例で考えてみると良いでしょう。

コストを犠牲にする
  • 資源を追加する(クラッシング)
     クリティカル・パス上の工程に資源を重点的に投入し、スケジュールの短縮を図るものです。クリティカル・パス以外の工程に資源を追加しても意味がありません。スケジュール・ベースライン策定時には、既に合理的な範囲内で資源が盛り込まれていることが多いはずです。設問のように短期間でアグレッシブな短縮が要請された場合は、要員追加を伴う事が多く、ブルックスの法則(※5)による遅延リスクを考慮する必要があります。残業も追加資源の一つです。

    ※5  ブルックスの法則
    「遅れているソフトウェア・プロジェクトへの要員追加は、プロジェクトを更に遅らせるだけ」という法則です。理由は以下の2点です。
      1. 新たに投入された開発者が、生産性の向上に寄与するまで時間がかかる。
        2. 人員の投入は、チーム内のコミュニケーション・ロスを増大させる

  • 並行作業を行う(ファスト・トラッキング)
      通常は、順番に実施されるアクティビティやフェーズを並行に実施することです。もっとも、手直しリスクがあることを覚悟する必要があります。
  •  例)組織制度設計未完了であるが、最も確率の高いと考えられる制度を前提に手直し覚悟でシステム設計を進める。
スコープを犠牲にする

 スコープを縮小するには、ステークホルダーとの合意が必要です。
 書くのは簡単ですが、第7回で述べた要求事項からスコープに落とし込み、合意に至るまでの調整のプロセスを思い出してください。必ずしも理解のある方々ばかりとは限りません。この調整を短期間で実施する必要があります。
 ステークホルダーに理解してもらい今後の活動を円滑に進めるためには、PMが以下の条件を満たしている必要があるでしょう。

 ・プロジェクトの目標の背景にあるビジネス要求、上位目的を理解していること
 ・プロジェクトの成果物、その利用者と日常運用イメージを持っていること
 ・プロジェクトの活動内容の理解(タスク毎の依存関係)
 ・主要ステークホルダーとの信頼関係

グレード(等級)を下げる

 グレード(等級)というのは、「機能的用途(例:ハンマー)は同じだが、品質への要求事項が異なるもの(例:耐力の異なるハンマー)を見分けるために用いる区分または階級」(PMBOK®ガイド   560頁)であり、品質とは異なります。
 ハンマーではなく、こんな例はいかがでしょうか。

〔グレード例〕

グレード
接待の店 ミュシュランの三つ星レストラン 少し洒落たレストラン 居酒屋
ウィスキ- 数万円の高級品 数千円の中級 千円程度の安価
システム 重要インフラ情報システム(※6) 一般基盤系システム 一般情報系システム
 Zさんのプロジェクトが提供する商品がどのグレードに該当するかは不明ですが、スピードを優先し、利用に応じた適切なグレードに見直すことで、過剰品質を回避し、コスト、開発期間も見直すこともできます。品質を向上させる必要があれば、徐々に改良していくという選択肢もあります。

※6 重要インフラ情報システム
 銀行の勘定系システム等、停止すると新聞で大きく報道されるような基幹システム。定義は以下のとおりで、99.99%の稼働率(年間50分未満の停止)が要求されます。
「他に代替することが著しく困難なサービスを提供する事業が形成する国民生活・社会経済活動の基盤であり、その機能が低下または利用不可能な状態に陥った場合に、我が国の国民生活・社会活動に多大な影響を及ぼす恐れがあるもの、人命に影響を及ぼすもの及びそれに準ずるもの」 (経済産業省 情報システムの信頼性向上に関するガイドライン(第2版))

 

 以上、今回はPMBOK®ガイド 第5版「タイム・マネジメント」について解説しました。
 皆様のプロジェクト成功に一つでも役立てていただければ幸いです。

以上

当連載の他の記事へのリンク

  第1回 イントロダクション
  第2回 ISO21500について
  第3回 ステークホルダー・マネジメント
  第4回 ナレッジ・マネジメント
  第5回 アジャイル型ライフサイクル
  第6回 プログラム、ポートフォリオ
  第7回 スコープ・マネジメント
  第8回 タイム・マネジメント
  第9回 リスク・マネジメント
第10回 統合マネジメント
第11回 PMBOK®ガイド は使えるのか
第12回 PMBOK®ガイド 拡張版