栗山監督のWBC采配とPMBOK®ガイド

創立25周年記念事業の一環としてプロジェクトマネジメントに関するコラムを発信することになりました。
記念すべき第1弾は「栗山監督のWBC采配とPMBOK®ガイド」です。


創立25周年記念全体プロモ―ションサポートチーム
坂本芳湖(のりこ)

⽇本全国が熱狂した WBC。私は野球のルールも知らず、WBC が何なのかもよくわかっていなかったが、連⽇報道される侍ジャパンが勝ち進む様⼦を⾒て、興味を持ちのめり込んでいった。なぜなら、栗⼭監督の采配、監督としての進め⽅には PMBOK®ガイド第7版 (以下、PMBOK®7)のエッセンスが散りばめられていると感じたからだ。PMBOK®7 は第6版までのプロセスを重視した表現から、価値創造にスポットを当てた内容になっている。私はPMBOK®7を愛読書にしている。初めて読み切った時には泣いてしまったくらい感動した。

「勝たなければならない」 、というメインテーマ。それに付随する、「WBC を通じてプラスになるものを実⾏する」といった隠れたテーマ。“⾃分の⼒を発揮できず苦しんでいる選⼿を引き上げる”、“終わった後、世界に向けてこの選⼿はすごいと思わせる状況を作る”、“⼦供たちに野球は楽しい、おもしろいと思って欲しい”。こうしようと考えて進められていたという。
監督は、勝つ確率を上げるため作戦、戦略を考える。前提条件、制約条件を整え、各種交渉をする。勝つ可能性のストーリーを組み⽴て、要所でテーラーリングを⾏う。それぞれの選⼿が⼒を発揮するための環境を考え整える。選⼿が持っているスイッチを⾃分⾃⾝が⼊れられるよう、どうしたらスイッチを⼊れてもらえるか選⼿の性格、特徴を知っておく。そして、それぞれが持つ使命を伝え、“あなたはジャパンの⼀員ではなく、あなたがジャパンなんだ”と、伝える。

「選⼿たちが勝ちに⾏こうと思ってくれたことが団結⼒を⽣み出し勝ちに繋がった。最⾼の物語を通じて次の世代の⼦供達にメッセージを送れた」、と栗⼭監督は⾔う。栗山監督の采配はPMBOK®7 での 12 個の原理原則にどれもこれも当てはまる。
選手からの信頼感は、栗山監督が良いスチュワードであることを示しているし、選手が力を発揮できる環境の準備は、協業的なプロジェクト・チーム環境を構築することに該当している。WBCの期間を通じメインテーマと隠れたテーマを目標とし実現していく姿を見せつけ、また結果として達成している。これはまさに価値に焦点を当てているということだ。

プロジェクトマネジャーは激務である。そのせいか、なりたがる⼈が多くはいないという少し寂しい現状があることも認めなければならない。だが、プロジェクトマネジャーを経験されたことがある皆様はきっと、ご⾃分が⼀番学びの場に遭遇できていること、そしてそれをうまくチームと共有できたらと考えられておられると想像している。

QCD(品質、コスト、デリバリー)のデスマーチでは物事が進まなくなったのは、「プロジェクトは⼈が、⼈のために⾏うものである」ということが表⾯化してきたからではないだろうか。プロジェクトを⾏うその先の価値を⾒出さなければ、それは苦しいだけのプロジェクトになってしまう。価値を創造することは、今のプロジェクトの成果であり、次に繋げる原則なのだ。

価値がどこにあるのかについて PMBOK®7には明記がない。価値はおそらく信じる先にあるのだと感じた。皆様はどうお感じになっただろう。価値のある場所は、ご⾃⾝がプロジェクトマネジメントを⾏う上で、⼤事にされている観点なのではないだろうか。それを踏まえて PMBOK®7 を読み深めてみていただきたい。きっと、響く点があることと信じている。