PMI日本支部 理事(社会貢献担当) 高橋 正憲
8月3日(土)PMI日本フォーラムにおいて、標記のタイトルでPMI日本支部の復興支援活動について報告を行いました。
2011年3月11日東日本大震災直後の理事会で、復興支援プログラムの実施を決定し、2年あまり活動してきました。その中で特にみなさんの関心が高いと思われる5つのパイロット・プロジェクトについて、その経緯と成果を説明し、そこで得られた教訓に基づいて「ソーシャル・プロジェクトマネジメント研究会」を発足させることを発表しました。
ここではフォーラムでの報告をお聞きいただけなかった方のために概要をご説明するとともに、当日のアンケートで多くの方から「関心がある」「もう少し詳しく知りたい」とのご要望がありましたので、今後の進め方などについて検討している点を補足説明します。
2年あまりの復興支援プログラムの活動は、PMI本部が持っている復興支援プロジェクトマネジメントのパッケージを翻訳して、日本の状況への適合を検討するとともに、実際に復興支援に携わっている自治体やNPOのプロジェクトマネジメントをサポートすることを中心にしてきました。
主なプロジェクトは、次の5つです。
ここで、iSPPとは「情報支援プロボノ・プラットフォーム」という情報技術専門家による支援組織です。
各プロジェクトの内容については、ここでは省略しますが(ご関心のある方は別途ご連絡ください)、実施母体は自治体、大学、NPOなどさまざまで、プロジェクトの目的も多岐にわたるよう選択してきました。そしてそれらのプロジェクトにおける体験から多くの教訓を得ることができました。
そのもっとも大きなポイントは、震災復興を含めて、より広い範囲で「社会的課題を解決するためのプロジェクト(この種のプロジェクトを“ソーシャル・プロジェクト”と呼ぶこととします)」が数多く存在し、それらの円滑な進行のために適切なマネジメント手法の導入が必要ということです。
ここで得られた主な教訓を考えてみましょう。
このような状況を考えたとき、ソーシャル・プロジェクトにおいては情報システム開発や製品開発のプロジェクトとは異なるアプローチが必要だということがわかりますが、基本的なマネジメントの考え方は十分に役に立つと思われます。
PMI日本支部の研究・実践活動の分野・対象は、これまでITプロジェクト関連の比重が高かったのが事実です。その理由の一つは会員構成としてIT分野のメンバーが多かったことによりますが、これまでの成果は着実に蓄積されており、今後も時流に合わせてさらなる活動の継続が期待されています。
いま日本社会が抱える課題が、震災復興に限らずさまざまな分野でクローズアップされています。PMI日本支部では、今後も復興支援活動を継続的に実施していくとともに、その対象範囲を広げて「プロジェクトマネジメントを通じた社会貢献活動の展開」を日本支部のビジョン・ステートメントに明記することを検討しています。
PMI日本支部が培ってきたプロジェクトマネジメントの知見を活用・展開することによって、社会的課題の解決に貢献することをミッションとして、「ソーシャル・プロジェクトマネジメント研究会」を発足させます。
ソーシャル・プロジェクトとは何か、ソーシャル・プロジェクトマネジメントではどのような工夫が必要か。まだきちんとした定義や確立した手法が定まっているわけではありません。そこから研究を始めなければなりません。
本年4月から有志が集まってソーシャル・プロジェクトマネジメント勉強会を行い、民間企業、行政系、社会志向系、大学の22団体を調査しました。そこで取り組まれている社会的課題は81項目に及び、分野別に分類すると次の通りになります。
環境 | 20 |
人材育成・自立支援 | 13 |
地域活性化・まちづくり | 10 |
社会的事業支援 | 10 |
教育・子育て | 9 |
防災対策 | 5 |
福祉・保険・医療 | 4 |
その他 | 10 |
これらの課題に一挙に取り組むことはできませんので、どこから進めるかを考えなければなりません。フォーラムのアンケートで優先度が高いと思うものを選んでいただきましたが、広く分散していて絞り込みにくいことがわかります。取り付きやすい所から始めて徐々に対象範囲を広げる、など意識合わせからやっていく必要があります。
研究会の活動は、次の3つのワーキンググループ(WG)で進める予定です。
それぞれのWGでテーマごとに活動計画を策定し、実際にプロジェクトを支援している災害復興支援プログラムのパイロット・チームと連携しながら研究を進めます。
事例調査WGでは、これまでの勉強会で得られた情報をさらに掘り下げてソーシャル・プロジェクト遂行上の問題点を把握し、その解決策を検討します。これまでのパイロット・プロジェクトでも指摘されているように、ステークホルダー・マネジメント、リスク・マネジメントを適切に行うとともに、変更への対応をどのように行うかがポイントと思われます。
手法開発WGでは、パイロット・プロジェクトの教訓を的確に反映して、柔軟かつシンプルな体系を構築する必要があります。初期の目標・スコープがあいまいであれば、仮説検証のアプローチが適切かもしれません。プログラムマネジメント的なフレームワークが必要と指摘されていますが、大艦巨砲のプログラムではなく、オープンな環境の中で状況に応じていろいろなプロジェクトが発生するようなイメージがあります。
普及活動は、手法の開発ができてからという意見もありますが、どのように普及を進めるか関連団体との協議やワークショップを実施することは有効と思われます。
ソーシャル・プロジェクトへの取り組みはまだ始めたばかりです。どのように進めるべきかといった検討からやっていかなくてはなりません。誰かから明確な要求があったり、先行するモデルがあったりするわけでもありません。したがって上に述べたようにあらゆる局面で疑問や課題にぶつかります。これらのテーマに挑戦する人を求めています。
ただいま準備委員メンバーが基本構想を練っており、12月に発表するとともに再度メンバーを募集しますので、ご関心のある方は積極的にご参加ください。