デザイン思考は一つのアプローチです。ロジカル思考が可能なところではロジカル思考も使われます。
ソーシャル・プロジェクトは、企業内のプロジェクトと違って初期の段階でゴールが明確に決められていないことがあり、そのために課題を定義して論理的に仮説を立てることが難しいことがあります。そのような場合にデザイン思考が有効であることを説明しました。(FAQ 1-2)
そこではデザイン思考を次のように記述しています。
「現場の状況や人の行動・思考を観察/体験して問題の本質を洞察し、課題を再定義して仮説/解決策を作り、プロトタイピングによる試行錯誤を繰り返して解決に導くアプローチ」
問題の本質を洞察、課題を再定義、試行錯誤の繰り返し、が特徴的なところです。
しかし、ソーシャルな取り組みと言っても、その中にはいろいろな作業が含まれており、中には課題認識も共有されていて成果物も合意できていることもあります。その場合は、デザイン思考のプロセスを用いずに、いわゆるロジカル思考で要件を定義して、従来型のプロジェクトマネジメントで成果物を作っていくことができます。
ロジカル思考では、課題に関連する事実を収集・分析し、複数の解決策(代替案)を作って比較評価し、最適な結論を選択します。課題が明確で関連情報が入手できれば、分析や比較評価の手法はいろいろ用意されています。しかし、ここで得られた情報が間違っていたり、評価基準が偏っていたりすると最適な結論が得られないことがあるので注意が必要です。
デザイン思考とロジカル思考の使い分けを考えてみましょう。まず出発点として、上述したように課題が明確で成果物が決まっていればロジカル思考で進められます。ソーシャル・プロジェクトでもすでに類似のプロジェクトの実績があって、同様の成果物を作ることが目標であれば手順ははっきりしていて効率よく進められます。逆にまだ前例がないようなケースであったり、関係者の間で目指す方向がまちまちであったりするときはデザイン思考の出番になります。言い換えれば課題を明確にし、ゴールないしビジョンを共有するためにデザイン思考のアプローチが適すると言えます。
次に進め方の違いですが、ロジカル思考では合意された課題を展開して細分化、具体化すれば個々の解決案が出やすくなりますので、今度は個々の解決策をまとめて成果物を作り上げていきます。その際の考慮点は論理的な整合性やMECE(モレなくダブリなく)に展開することで、そのための手法は完備されていると言えるでしょう。デザイン思考では問題の本質を捉えるために現場に入るなりして、関係者と共感を得ることから始めます。方向性がバラバラな関係者をまとめるために、身近で小さな部分のプロトタイプを作って、異論があれば修正していくという約束で合意を得ていきます。