2026年10月10日(土)、PM創生研究会の15周年を記念して「KANSAI RE-BOOT 2026 〜神庭さん、しーさん、勝さんと語る、これからの関西を爆上げする『プロジェクト』の力〜」を、マイドーム大阪とZoomのハイブリッドで開催しました。日本のPM界を引っぱってきた神庭弘年さん、竹林一さん(しーさん)、勝連城二さん(勝さん)の3人をお迎えして、午前はワークショップ、午後は講演2本と本音パネル。朝から夕方まで、たっぷり一日のイベントです。2011年2月に発足したPM創生研のビジョンは「関西マインドで世界をワクワク!」。15年目のRE-BOOTにふさわしい一日になりました。

午前は会場参加の方だけで、110分のワークショップ。テーマはずばり「恥」です。新しいことを「やってみたい」と思っても、「どう思われるやろ」とざわっとして、やめておく。まだ誰にも何も言われていないのに、止めたのは自分——そんな経験、ありませんか?
ワークショップでは、まず「恥ずかしい」を2つに分けました。ミュートのまま3分しゃべっていた、のような「変なことをしてしまった」気恥ずかしさは、その場で消えて、あとで笑い話にできます。一方で「自分はダメなのでは」という恥は、まだ何も起きていなくても心がざわつき、やりたいことを引っ込めさせます。この日の主役は後者。恥とは「自分の価値が揺らぐ感情」だからこそ、覚えて帰ってほしいのは「失敗したことと、自分がダメな人間だということは、分けて考える」という1文だけです。目指すのは、人の評価を気にしなくなることではありません。気になっても、行動の決定権を渡さないことです。
後半は4人1組で、事例を読み解きました。朝会で「PMやってみたい人おる?」と聞かれたのに、手を挙げられなかった入社7年目のコバヤシさん。あとで「実は、やってみたかったんです」と打ち明けられた先輩は、どう返すか。「まあ、またチャンスあるって」と流す返し。「あの案件、お客さんきついで」と心配が先に立つ返し。「それ言うてくれて、うれしいわ。何がいちばんやってみたい?」と受け取る返し。声に出して読み比べると、同じ”やさしさ”でも、相手が一歩を踏み出せるかどうかがまるで違います。そこから見えてきた返し方のコツが「ひろう → のばす → おす」。まず受け取って、問いで広げて、本人に聞いて待つ。全部やらなくてよくて、まずは「ひろう」だけでいいんです。
締めくくりは、一人ひとりの小さな宣言です。「私は、本当は○○をやってみたい。でも、○○になったら、ちょっと恥ずかしい。それでも、まず○○を試してみたい」。この3行を卓の仲間に向けて口に出し、聞く側は「こうすべき」をお休みして受け取りました。
参加者からは、「返すのが難しくて『そうなんですね』しか言えなかった」という声も。じつはそれで十分。まず受け取ることこそ、このワークのねらいでした。最後のスライドは、そのまま午後への橋渡しです。「午後は、手を挙げる番。そして、誰かの手を拾う番。」

午後のトップバッターは、オムロンで700のプロジェクトをやり切り、PM創生研の探求テーマ「起承転結人材モデル」の生みの親でもある竹林一さん。冒頭の「元気ですか!!」から、会場の空気が一気にほぐれます。
イノベーションとは、シュンペーターの言う「新結合」。自分の持っているものと、ほかの知恵を組み合わせて新しい価値を生むこと。竹林さんはこれを、マイナスをゼロに戻す「課題解決型」と、ゼロからプラスを生む「ワクワク創出型」に分けて、大阪と京都の事例で語りました。
大阪編の主役は、大阪生まれの商品たちです。回転寿司は、ビール工場のベルトコンベアを寿司に転用し、4〜5年かけて「秒速8cm」という黄金の速度を見つけた。オルファのカッターは、板チョコの溝をヒントに「刃を折る」という発想にたどり着いた。ボンカレーは、社内の猛反対を10万食の試作と「透明なパウチ」で押し切った。なぜ大阪はワクワクを生み続けられたのか。そこには「自分ならこうしたい!」という一人称の意志があり、「おもろい」を「儲かる」より先に置く文化がありました。逆に、ワクワクが生まれにくくなった理由として挙がったのが、論理で説明できないものを削ぎ落とす承認プロセスや、効率化で「ぶらぶらする余白」が消えたこと。ちなみにKPIの大阪訳は「勝手に、ぱっと、いてまえ」だそうです。
京都編では、島津製作所・任天堂・堀場製作所・オムロンといった長寿企業の知恵から、組織が大きくなるほどかかる「大企業病」のブレーキへ。自分の組織にブレーキがかかっていないかを点検する、セルフチェックシートも紹介されました。
そして話は、PM創生研にはおなじみの「起承転結」人材モデルへ。ゼロから1を仕掛ける「起」、それを何倍にも広げる仕組みをデザインする「承」、広げる過程で効率化しリスクを抑える「転」、最後にきっちり回す「結」。起承での失敗は「試して学ぶ」ためのもの、転結での失敗は「損失」。同じ失敗でも、意味がまるで違います。だからこそ、挑戦する人の後ろには、最終責任を引き受けて「やってみなはれ」と背中を押す「ガーディアン」が要る。ガーディアンがいる時といない時で、竹林さん自身の心の状態(EQ)がどう変わったかを示したグラフには、説得力がありました。
まるで落語を聞いているように、すっと耳に入ってくる講演でした。ガーディアンは、日本語で言えば”谷町”。「失敗してもええからやってこい、責任は俺が取る」と言ってくれる人がいるかどうかで、挑戦できる仕事は変わります。最後のスライドの言葉は「失敗しないことが大失敗」です。

続いては、元PMI日本支部会長で、PMI日本フォーラムのベストスピーカーの常連でもある神庭弘年さん。サブタイトルは「PMは自分をどうコントロールすべきか」です。
出発点は、日本の労働人口が減り続けているという現実でした。一人あたりの生産性を上げなければ、貧しくなるばかり。「一人で4倍くらい働く方法はないか? AIで何とかならんか?」。そこで紹介されたのが、AI時代の新しいスターFDE(Forward Deployed Engineer)です。顧客の現場に入り込み、課題の特定から実装、定着までを一人で担う人材で、「従来4人がかりだった仕事なら、4倍の処遇をしてでも欲しい」。AIでプロジェクトは小さくなる一方、スコープは広がっていく。少人数で大きな価値に挑むには、「良いチーム」をどうつくるかが鍵になります。
ここで飛び出したのが「Osaka Re-born」。金太郎飴のように同質なチームからは、新しい発想は生まれない。真似をせず、おもろいかどうかにこだわり、どこへ行っても大阪弁を直さない。「ワシはワシ、あんたはあんた、そんでええやん」と互いの個を認め合う大阪のカルチャーこそ、異質な個がぶつかり合うチームのひな形だ——。スライドには「強いチームを作るには、大阪人を入れろ!」の一文まで。
とはいえ、タイトルは「熱狂と冷静の間」。熱狂するのはサポーターで、選手が熱狂したら勝てない。 AIの熱狂に踊らされず、PM自身が冷静に自分を見つめ直すこと(セルフ・アウェアネス)こそが真の武器になる。これからのPMに求められる資質として、「リスクを丸呑みできない気の弱さ」「適時に適切な言葉で言える、ちょっとした勇気」「人を信頼しても、人間を信用しない用心深さ」という、神庭さんらしい3つが挙がりました。
自分を見つめ直す具体的な道具が、神庭さんが2010年から提唱しているRADAF(Reflection → Awareness → Desire → Action → Feedback)のサイクルです。内省だけでは「人から自分がどう見えているか」はわからない。だからコンピテンシーのチェックリストで自分の行動を棚卸しし、他者からのフィードバックをもらう。耳の痛い指摘を受け止める経験こそが成長への一歩で、変わろうとする努力は、すぐ周りに伝わる。締めの言葉は「変革の最小単位は『個人の気づきと行動変化』」。午前のワークショップで最後に掲げた「誰かが未熟さを見せて、周りが拾う。その一往復が、イノベーションの最小単位」と、図らずも響き合う一言でした。
「これからはガチンコの世の中になる」という一言も心に残りました。議論やぶつかり合いを避けてうまくいくものなんてない。スマイルカーブの真ん中にいるキャリアは「未来がない」のではなく「厳しい未来」だ、という言い回しも印象的でした。

最後は、神庭さん・竹林さんに勝連さんが加わった3人の本音パネルです。テーマは「EQとフレームワークと実践事例を掛け合わせる」「『やってみなはれ』の文化」「日本を変えるのは関西から!」の3つ。会場からの質問も交えながら、予定の時間をはみ出すほどの熱さになりました。
テーマ1:EQは「目的」か「結果」か
口火を切ったのは、PMBOKの普及に長く携わってきた勝連さん。共感力・自己認識力・感情のコントロール力というEQの3要素は、年齢に関係なく伸ばせる能力だと、基本から整理してくれました。
竹林さんは、自分のEQを毎年測ってきた経験を披露。苦手な上司がいた時期は、にこにこ仕えていても、結果のグラフは「キュッ」と縮んでいたそうです。自分と組織の平均を並べてみると、本人は「すごいパワーで引っ張っていくリーダー」なのに、組織のほうは「誰も思ってへんやん」。会場が笑いに包まれる一方で、本人が苦手なところは得意なサブリーダーと組んで、組織としてバランスをとってきたという話には、リーダーの実感がこもっていました。
神庭さんは「僕はむしろ、振る舞い(コンピテンシー)を意識したい」と、パーソナル・コンピテンシーのチェックリストを画面に映しました。自分で5段階で採点し、気になる項目は周りに「俺の振る舞い、採点してくれへんか」と頼む。自己評価とのギャップこそが伸びしろで、100項目を全部やる必要はなく、1つか2つをこつこつ続ければいい。「人からどう見えているかがわかると、景色がまるで変わる。批判されるのが怖くなくなる。これは、やってみないと絶対にわからない」。
研究会メンバーから「チームでEQを高める工夫は?」と聞かれると、神庭さんが「爆弾を投げますね」。EQもモチベーションも目的ではなく結果。面白い仕事なら、ほっといても上がる。本来の仕事にガーッと取り組んで、結果としてEQも上がるのが一番いい姿だ、と。対して勝連さんは、初めてのフルマラソンに挑み、30kmを過ぎて「倒れてもいいから、歩けるだけ歩こう」と完走した体験から、挑戦の中でEQは確かに鍛えられると語り、日々の意識と仕事の中の挑戦は「両輪」だとまとめました。同じEQでも、3人のスタンスの違いがくっきり見えたのが、このパネルの醍醐味です。
「若手はやる気なのに、上司が小さい組織はどうしたら?」という質問には、竹林さんが「もう言葉さえ通じない。『十八番』も『忠臣蔵』も通じないんです」と言いつつ、若い人に教えてもらうくらいの気持ちで、ガーディアンになって「思い切りやってみ」と言えるかどうかだと答えました。
テーマ2:「やってみなはれ」は生きているか
勝連さんは「やってみなはれ」を、「責任は俺が取る。思いっきりやってみ」と言える上司の言葉だと定義しました。好きにしていいよ、という投げやりな言葉ではない、と。
竹林さんが紹介したのは、あるアイスブレイクです。2人1組で1単語ずつ出し合い、「モンスターがいると言われる森に入っていく」物語をつくる。幼稚園児は全員が森に入り、大学生だと3割ほどが入らなくなる。企業でやると……「まずモンスターが本当にいるか、ヒアリングしよう」「危ないから武器を買いに行こう」「片方が入ろうとすると、リスク管理でもう片方が止める」。最後には「モンスターをやっつける業者を探そう」と、業者の一覧表まで出てくるそうです。笑い話のようで、本当に起きることだとか。森に入らなければ、モンスターにも出会えないし、失敗すらできない。ちなみに関西のある小さな会社では、5分で「モンスターは生き別れた弟やった」という物語になったそうです。
ここで神庭さんが「真っ向から逆のことを言ってみようかな」。やってみなはれが通じたのは、会社が成長期で、規模も小さかった頃だけ。何万人もいる大企業では、海のものとも山のものともわからないものにお金はつかない。経営層は旗を振るけれど、下は総論賛成・各論反対で、アドバルーンはいつの間にかしぼんでいく——。ただ、AIで組織が小さくなり、風通しがよくなれば、また起こるかもしれない、とも。
竹林さんは、オムロン時代に社内で反対されたとき、「やって失敗したら僕が責任を取る。でも、やらずに失敗したときの責任は誰が取るんですか」と返したエピソードを披露。会場から拍手が出かけるなか、神庭さんと一緒に「大企業診断士」として回りたい、と話を結びました。
テーマ3:日本を変えるのは関西から
最後のテーマは「関西を盛り上げるには?」。勝連さんは、2府4県それぞれの事情と多様な価値観を持ち寄れる関西は、地域がつながって価値を生むのに恵まれた土壌だと話し、あとは行動するだけ、と。
竹林さんは「戦いの軸を変えよう」。時価総額や偏差値のような、他人が作ったルールで比べるから負ける。ある関西の大学は「早慶近」と打ち出して、比べる軸そのものを変えた。時価総額では負けても、千年企業から並べたら日本はトップ。電池にUSB端子をつける、今ある車椅子に後付けで電動ユニットをつける——そんな発想こそ、本来は関西からどんどん出てくるべきだ、と。見方を変える「リフレーミング」は起承転結の「承」の役目で、「承の街・関西」をつくりたいという言葉が印象的でした。
神庭さんは、アメリカで「日本企業は内部留保をため込むばかりで投資しない」と辛辣に言われた経験から、大企業には期待しにくいと前置きしたうえで、「他と比べりゃ外国同然」という関西の独特な価値観が生きるのは中小企業だと指摘しました。AIを使えば、少人数でも知恵と度胸でビジネスを起こせる。そういう人は、東京より関西のほうが向いている。「やってみなはれ」は企業の中ではなく、個人のマインドに生きている。だからこそ、中小企業の若い”やんちゃ”なやつに思いっきり期待したい、と。
最後の質問は、午前の宣言から
パネルの最後に手を挙げたのは、山本先生でした。「午前のワークショップで、恥をかいて質問すると宣言したので」——。午前のワークショップが、午後にちゃんとつながった瞬間です。
質問は、「飴ちゃんを持って、息子のお尻を叩いて、旦那さんには『やってみなはれ』と言える。そんな関西のおばちゃんのパワーは、関西をワクワクさせるのに使えますか?」というもの。神庭さんは「人に何を言われても気にしない。私は私、人は人、それでええやん。個性のない人間が新しいものを生み出すなんてありえない」と大絶賛。竹林さんは、最後まで生き残るのは関西のおばちゃんだと言い、「企業にはおかんが必要」という”チーフ・おかん・オフィサー”の話まで飛び出しました。勝連さんは近江商人の「三方よし」を関西の強みに挙げ、強みは行動してこそ、と結びました。
クロージングでは、副代表の大西さんがこの日の持ち帰りを「おばちゃん化する。おっちゃんは頑張る」とまとめて、全員で集合写真を撮りました。




夜は場所を移して交流会です。座敷の3つのテーブルに分かれて乾杯すると、あとはもう関西らしいにぎやかさ。あちこちで握手が交わされ、カメラを向ければピースと笑顔が返ってきます。昼の熱気をそのまま持ち込んだような、15周年らしい夜になりました。

午前の「恥」、竹林さんの「やってみなはれ」とガーディアン、神庭さんの「個人の気づきと行動変化」、そしてパネルの「関西のおばちゃん」パワー。振り返ってみると、この日ずっと語られていたのは、未熟な一歩を口に出す人と、それを拾って背中を押す人の話だったように思います。恥をかいて手を挙げた最後の質問は、その一往復が目の前で起きた瞬間でした。
15周年を迎えたPM創生研は、ここからまた「関西マインドで世界をワクワク!」をRE-BOOTしていきます。ご参加いただいた皆さん、そして登壇いただいた神庭さん、竹林さん、勝連さん、本当にありがとうございました。
11月の定例会は、11月21日(土)。大阪での現地参加もある予定です。。
PM創生研はゲスト参加、見学随時OK!ぜひお待ちしています。