PMアソシエイツ株式会社
鈴木安而
PMアソシエイツ株式会社(PMA)は、プロジェクトマネジメント領域に特化した「鈴木安而」のグローバルな経験とPMBOK®ガイド翻訳で得た知見を基に、プロジェクトマネジメントに関する基礎知識からPMP®資格試験に必要な高度な知識まで、幅広い教育・研修をお届けしております。4名の講師陣で、2024年だけでも1,000名ほどの受講生の能力向上に貢献してまいりました。さらに最近では、PMI-ACP®やCAPM®の資格試験のための講座も実施しております。そして、それらからの知見をまとめ、今までに13タイトルのプロジェクトマネジメント関連の書籍を出版しており、最近では「PMBOKガイド第7版の活用(秀和システム)」と「PMP完全攻略テキスト(翔泳社)」が、特にご好評をいただいております。
ところがある日、お客様である会社の社長から相談を持ち掛けられました。「鈴木さんの勧めでPMPを何人か作ったが、実務に役立っていない。これはどうしたことか」というのです。すぐさまその会社に飛んで行き、PMP®を取得した数人と面談を行いました。彼らの実務上の問題を理解したので、後日補習を行ったのですが、どうもすっきりしません。研修後に彼らと懇親会をおこなったのですが、彼らのホンネでは「今の仕事は、PMBOK®ガイドに沿ったような仕事ではない」というのです。その会社のビジネスはITシステム運用とソフトウエア開発なのですが、日本のITビジネスの階層構造の位置づけとしてはニ次請や三次請に相当します。要するに一次請であるSIer から受注した仕事をこなせばよいわけで、プロジェクト全体を運営したりマネジメントしたりするわけではないのです。一次請の会社が分割したスコープの一部を担っているだけなので、その部分のスケジュール管理が主たるマネジメント領域なのです。一応「請負契約」ではあるのですが、プロジェクト全体からすると一部分であるスコープに基づくスケジュール管理だけなのです。プレシデンス・ダイアグラムはありませんからクリティカル・パスは特定されていません。進捗管理はKKD(勘と経験と度胸)の世界です。PMBOK®ガイドが志向する全体管理には程遠い状況ですが、これが実情なのです。
この時の議論から、次のように考えました。日本の「請負」というビジネス慣行は、米国流のビジネス慣行を基礎とする「PMBOK®ガイド」の考え方にはそぐわない、ということです。日本の民法にも規定された「請負」という実務慣行は、明治初期に制定されて以来少しずつ変化はしてきましたが、根底は「任せます」「お任せください」という紳士協定に基づくもので、いわば「性善説」ともいえる実務慣行は変わっていません。「善良なる管理者規定」なる用語がその一端を表しています。これはこれでいいことなのでしょうが、米国流は、いわば「性悪説」の文化で、契約書はリスク対策書という意味合いを持っています。米国におけるプロジェクトで、私が初めて英語の契約書を書くことになったとき、「任せる、なんてもってのほかだ」と叱られた経験があります。そもそも日本の実務慣行を米国流に変えるということは土台無理な話なので、日本の実務慣行に合わせた教育が必要ではなかろうかと、考えました。つまり、発注側が取り仕切る米国流のプロジェクトマネジメントのための教育と、日本流の一次請や二次請でのプロジェクト運営に関する教育とは自ずと異なるということです。発注側では、自社の事業目標を達成するためのプロジェクト運営が基本であり、これがPMBOK®ガイドの位置づけです。一次請は、それを支援するためのプロジェクト運営を行います。しかしながら、その下に位置づけされる開発会社は、原発注者との直接取引ではないため、プロジェクトマネジメント全体には関われないので、「いいものを安く早く」というQCDの世界に閉じ込められることになります。QCDは、そもそも事前に決められた手順に沿って作業する「モノつくり」の製造工程における管理項目です。それを頭脳労働であるソフトウエア開発工程に適用したために「デスマーチ」が発生したことは、エドワード・ヨードン著「デスマーチ」に詳しく述べられています。その中に「ソフトウエア開発は死の行進である」という有名なフレーズがあります。QCDのために技術者が犠牲になったのです。
これらの実情を踏まえると、PMBOK®ガイド流のプロジェクトマネジメント実務者を育てることに加えて重要なことは、日本の実務慣行に沿ったプロジェクトを運営できる実務者を育てること、であることは明白でしょう。PMBOK®ガイドの学習は、あくまで発注側の運営について学ぶことです。しかしながら日本での現実は、圧倒的に二次請以下の会社や技術者が多数を占めているので、そこに目を向けた教育が必要なのです。つまり日本におけるプロジェクトマネジメント教育・研修は、発注側と受注側の両側面で実施されなければならないということです。
そこで弊社は、受注側に目を向けた自己学習ツールを開発しました。商品名を「ピンぼっくん」(商標登録済み)と言います。
自習に便利なように、PCでもスマホでも、いつでもどこでも、ちょっと時間が空いたらゲーム感覚で操作できるアプリです。模擬試験形式になっていますが、時間制限はありません。設問には三つのレベルが設定されています。初級編はプロジェクトマネジメントに関する用語の理解が目的で、CAPM対象です。中級編はPMP資格試験対策同様のレベルです。上級編は日本独自の実務慣行や法律関係の理解を目的としています。詳細は「ピンぼっくん」のホームページ(https://PMVOQN.com/)をご覧ください。このアプリでは組織単位でのスキル管理にも役立つようにデザインされていますし、必要な方にはPDUを発行可能です。ぜひお役立てください。